
曲げわっぱ職人の仕事|一つの弁当箱ができるまでの工程と手仕事のこだわり
手のひらにのる小さな弁当箱ひとつにも、職人の仕事がいくつも重なっています。板を削り、煮て、曲げて、乾かして、綴じて、底をはめていきます。どの工程も、木の様子を見ながら手で進めていく仕事です。
この記事では、大館で曲げわっぱをつくる職人の仕事を、工程ごとにご紹介します。それぞれの工程で職人が何に気を配っているのかを知ると、手もとの曲げわっぱが少し違って見えてくるはずです。
この記事でわかること
- 曲げわっぱ職人が受け持つ、主な工程
- 工程ごとに、職人が気を配っていること
- 機械ではなく手仕事で行う理由
- 職人の仕事が、使う人に届けているもの
曲げわっぱ職人の仕事とは
曲げわっぱ職人の仕事は、一言でいえば「木の性質を見極めて、器の形にすること」です。秋田杉は、同じ木から取った板でも、木目の詰まり方や水分の含み方が一枚ずつ違います。その違いを手と目で確かめながら、割れずに、すき間なく、美しい形に仕上げていきます。
道具や型は使いますが、仕上がりを左右する工程の多くは、職人の手に任されています。曲げわっぱが国の伝統的工芸品に指定されているのも、こうした手仕事の技が受け継がれているからです。
一つの弁当箱ができるまで
大まかな流れは次のとおりです。工程の順番や細かな方法は、器の形やつくり手によって異なります。

1. 板を削る
秋田杉を、曲げられる薄さの板に削り出します。厚すぎると曲がらず、薄すぎると弱くなります。器の大きさや形に合わせて、ちょうどよい厚みに整えるのが最初の仕事です。
2. 煮て柔らかくする
削った板を熱湯で煮て、曲げられるように柔らかくします。木の状態によって柔らかくなり方が違うため、職人は板の様子を見ながら、曲げどきを見極めます。
3. 曲げて、乾かす
柔らかくなった板を型に沿わせて曲げ、合わせ目を挟んで固定します。力を入れすぎると割れ、弱すぎるときれいな曲線になりません。曲げたあとは、形が落ち着くまで時間をかけて乾かします。
4. 桜の皮で綴じる
乾いたら、合わせ目に穴をあけ、桜の皮を通して縫いとめます。側面に並ぶ綴じ目は、器を丈夫にすると同時に、曲げわっぱの表情にもなる部分です。詳しくは「合わせ目の桜の皮の役割」でご紹介しています。
5. 底板をはめて、仕上げる
底の形に合わせて削った板を、すき間なくはめ込みます。最後に表面を整え、弁当箱ならウレタン塗装やふき漆、おひつなら木地のままと、用途に合わせた仕上げをします。
工程の流れは、「曲げわっぱの作り方とは?」でも写真とともにご紹介しています。
職人が気を配っている3つのこと
工程のなかで、職人が特に大切にしていることを3つ挙げます。
木目を読む
木目の流れや詰まり方を見て、どの板をどの器に使うかを決めます。木目がそろっていると、曲げたときの姿がきれいに整います。秋田杉の均一で美しい木目は、職人の目で選ばれてはじめて活きてきます。
すき間をつくらない
合わせ目や底板にすき間があると、汁気がしみたり、汚れがたまったりする原因になります。毎日洗って使う道具だからこそ、ぴたりと合わせることに神経を使います。
使う人の手を思い浮かべる
蓋の開け閉めのしやすさや、手に持ったときの軽さ、ふちの口当たり。使う場面を思い浮かべながら、細かなところを整えていきます。

なぜ手仕事でつくるのか
天然の木は、一枚ごとに性質が違います。同じように煮て、同じように曲げても、板によって曲がり方や乾き方が変わります。その違いに合わせて加減を変えられるのが、人の手の強みです。
木は、まわりの湿気によっても状態が変わる素材です。季節や天気によって、板の乾き方や曲げたあとの落ち着き方も変わってきます。決まった手順をなぞるだけではなく、その日の木の様子に合わせて手を動かすことが、職人に求められる力です。
手仕事でつくる曲げわっぱは、ひとつとして同じ木目のものがありません。木目や色味が少しずつ違うのは、天然の秋田杉を職人が一つずつ仕上げているからこその個性です。
手もとの曲げわっぱで見つける、職人の仕事
お持ちの曲げわっぱがあれば、次のところを眺めてみてください。職人の仕事の跡が、器のあちこちに残っています。
- 合わせ目の綴じ目:桜の皮の縫い目が、まっすぐ等間隔に並んでいます
- 底板と側面の境目:底板が側面にすき間なく収まっています
- 木目の流れ:曲げた板の木目が、ぐるりと途切れずに続いています
- 蓋と身の合わせ:蓋がきつすぎず、ゆるすぎず、すっと収まります
どれも、使っているうちは気にとめないところかもしれません。けれども、こうした細部が整っているからこそ、毎日気持ちよく使えます。
新しい器を生み出すのも、職人の仕事
職人の仕事は、昔ながらの形をつくることだけではありません。今の暮らしで使いやすい形を考え、かたちにすることも大切な仕事です。
たとえば、細長い楕円に一本のラインを入れた曲げわっぱ「軌(MICHI)」は、第34回秋田県特産品開発コンクールの民工芸品部門で最優秀賞(秋田県知事賞)を受けました。秋田杉の香りを楽しむ酒杯や、秋田杉のお箸「環(めぐり)」のように、弁当箱以外の器づくりにも、曲げわっぱで培った木の扱い方が活かされています。
職人の仕事は、買ったあとも続く
曲げわっぱは、直しながら長く使える道具です。すき間やひび、塗装のはがれが出たときに、つくった職人の技で直せることがあります。大館工芸社でも、自社の製品の修理や塗り直しを承っています(状態によっては修理できない場合もあります)。
自分で接着剤を使って直すと、かえって修理が難しくなることもあります。気になるところが出てきたら、まずはつくり手に相談してください。修理については「曲げわっぱの修理方法とは」で、自分で直す前に知っておきたいことは「接着剤やボンドで直していい?」でご紹介しています。
よくある質問
Q. 曲げわっぱは、すべて手づくりですか?
A. 道具や型は使いますが、板を曲げる、桜の皮で綴じる、底板をはめるといった仕上がりを左右する工程は、職人が手で行っています。
Q. 職人には、女性もいますか?
A. 曲げわっぱづくりは、力の強さよりも、木の状態を見極める目と手の感覚が大切な仕事です。性別を問わず、木と丁寧に向き合うことが求められます。
Q. 手づくりだと、大きさに違いはありますか?
A. 板は型に沿わせて曲げるため、形や大きさは型に合わせて整えられます。ただ、天然の木を一つずつ仕上げるため、木目や色味はひとつひとつ異なります。容量の目安は商品ページに記載していますので、選ぶときの参考にしてください。
Q. 職人の仕事を間近で見ることはできますか?
A. 大館工芸社では、曲げわっぱの製作体験を行っています。受け付けの状況や内容は時期によって異なるため、事前にお問い合わせください。体験の楽しみ方は「曲げわっぱ作り体験の楽しみ方」でご紹介しています。
まとめ
曲げわっぱ職人の仕事は、秋田杉の性質を見極め、削る・煮る・曲げる・綴じる・底をはめるという工程を、手で積み重ねていくことです。木目を読み、すき間をつくらず、使う人の手を思い浮かべながら仕上げています。
職人の仕事は、修理という形で、買ったあとも続いていきます。手仕事でつくられた器を、直しながら長く使ってみてください。
大館工芸社について
秋田県大館市で、職人が秋田杉を一つずつ曲げて仕上げる「大館曲げわっぱ」をつくっています。昔ながらの弁当箱やおひつに加え、新しい形の器づくりにも取り組んでいます。修理や塗り直しのご相談も承っています。












